好酸球性副鼻腔炎と同時に発症した好酸球性肺炎の1例

 

 症例: 76歳男性

 主訴:咳、痰

 既往歴:平成18年、胃がんで幽門温存胃切除術。高血圧。

 生活歴:定年まで教員。30年間空家だった家の整理のため平成20年9月から平成21年2月まで土日に作業を続けた。喫煙歴なし。

 家族歴:特記すべきことなし。

 現病歴:10年前より6月頃になるとアレルギー性鼻炎を発症し、また、3年前より副鼻腔炎による鼻閉感を訴え、耳鼻科で加療を受けていた。平成21年6月より咳を訴えるようになり、耳鼻科にてクラリシッド(CAM)夕食後200mgの投与を受けた。咳は夜間より日中に多く、喘鳴や発作性呼吸困難はなかった。平成21年7月10日の呼吸器検診にて左上肺の浸潤影(図1)を指摘された。7月31日の単純胸部CTにて左上葉に樹枝状の軟部組織影、粒状影、濃度上昇と左肺門の腫大を指摘された。8月7日左上葉の肺癌の疑いにて当院内科に紹介された。8月初めから痰も訴えるようになった。

 現症および画像所見:乾性ラ音は聴取せず、その他、胸腹部に理学的に異常所見は認めなかった。8月18日の胸部造影CT(図2)にて左肺上葉の樹枝状および結節状陰影は縮小傾向を認め、内腔が閉塞していた左B1+2の一部に含気が出現し、静脈瘤状の気管支拡張像を認めた。樹枝状および結節状陰影の大部分は粘液栓が疑われた。また、平成18年の胃がん術前の胸部CT(図3)では肺野に異常所見は認めなかった。

 検査成績:喀痰は膿性だが常在菌のみ、真菌は陰性で、初診時の喀痰抗酸菌塗抹培養陰性、結核菌PCRも陰性だった。初診時の検査成績を表1に示す。末梢血の好酸球増多があり、CRPは軽度上昇していた。IgEは軽度上昇し、真菌のIgE-RASTはアスペルギルス以外のペニシリウム、カンジダで疑陽性であった。以上の臨床所見と検査成績より、後に述べるVenarskeら診断基準を参考にABPMと診断した。

治療および臨床経過:空家であった家の整理などの埃を吸うような作業を控えるように指導した上で、CAM 200mgを1日2回14日間投与した。咳が消失したため、エリスロシンに変更し、200mg1日3回の投与を開始した。9月16日の胸部レントゲン(図4)では左上肺の陰影は縮小した。平成22年1月6日の検査成績を表2に示す。末梢血の好酸球増多はなく、CRPも陰性だった。IgEは正常範囲、ペニシリウム、カンジダのIgE-RASTも陰性であった。1月22日に気管支鏡検査を施行したが、両側の亜区域支まで観察したが粘液栓は確認できなかった。平成22年3月の胸部CT(図5)では左肺上葉の樹枝状および結節状陰影はさらに縮小し、気管支拡張像も軽快し、粘液栓はみられなかった。


 考察

 本症例の特徴としては1)胸部CTでの粘液  栓の疑いと気管支拡張像、2)軽度炎症所見と好酸球増多とIgE上昇とアスペルギルス以外の真菌のIgE-RAST疑陽性、3)アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎の既往と空家であった家の整理作業歴、4)埃を吸うような作業の中止とマクロライド投与後の臨床像の軽快、があげられる。VenarskeらのABPMの診断基準は喘息および、皮膚試験かRASTによる真菌特異的IgEの存在の他に、1)IgE上昇、2)末梢血好酸球増多、3)現在または肺浸潤影の既往、4)中心性気管支拡張のうち3項目が合致することとしている(2)。本症例ではRASTによる真菌特異的IgEは疑陽性だったが、咳痰などの喘息症状を認め、その他の診断基準が合致したことよりABPMと診断した。ただし、皮膚試験は実施しておらず、治療前の真菌特異的IgEが疑陽性だったことより非典型例とも疑われるが、治療によりこの真菌特異的IgEが低下したことから、初期像をとらえたと考えた。また、平成18年の胸部CTでは肺野に異常所見は認められず、発症後は症状改善にともない粘液栓の消失と気管支拡張病変が軽快していることより、何らかの好酸球性気道炎症が主たる病態であったことは間違いない。発病初期に、真菌に対する皮膚反応や 喀痰や粘液栓からの真菌の分離ができれば、より診断が確実になったものと考えられた。

 ABPMの治療はABPAの治療に準ずる。ABPAの治療はステロイド剤が基本で、さらに難治例には抗真菌剤の追加投与が推奨される(3)。本例ではマクロライドが有効であった。14と15員還のマクロライドは免疫調節作用や組織修復作用を持ち、びまん性汎細気管支炎、慢性副鼻腔炎、気管支拡張症、喘息などに作用する。また、アトピー患者の好酸球からのInterleukin8の放出を抑え、好酸球のアポトーシスを促進し、さらに、喘息患者の気道の浮腫を抑え、喀痰のクリアランスも改善させる(4)。ABPMにマクロライドで治療した報告は検索した範囲ではなかった。ABPAに対するマクロライド剤の使用例は相原らが報告し、真菌薬やマクロライドの投与中止がABPA悪化および気管支中心性肉芽腫症の顕在化の誘因となりうる可能性を示唆している(5)。

 結語

 マクロライドは抗炎症作用のほか、喘息の増悪因子であるマイコプラズマやクラミジアなどの抗菌作用も併せ持ち、ABPMの好酸球性気道炎症に作用したものと考えられた。

     文献

1)雨宮 由佳, 白井 亮,他: Schizophyllum commune(スエヒロタケ)によるアレルギー性気管支肺真菌症の1例~本邦報告例の臨床的検討~.日呼吸会誌47 : 692-697, 2009

2)Venarske DL , deShazo RD : Sinobronchial  Allergic Mycosis* : The  SAM  Syndrome.  Chest  121:1670-1676, 2002

3)Agarwal R : Allergic Bronchopulmonary  Aspergillosis. Chest  135:805-826, 2009

4)Hatipoglu  U, Rubinstein I : Low-dose, long-term macrolide therapy in asthma: An overview. Clin Mol Allergy. 2: 4,2004

5)相原 顕作, 石床 学,他:アレルギー性気管支肺アスペルギルス症経過中に気管支中心性肉芽腫症が顕在化した1例.日呼吸会誌46: 455-460, 2008


図1 平成21年7月10日

 
図4 平成22年9月16日
 
図3 平成18年3月31日
 

図2 平成21年8月18日

 
図5 平成22年3月12日
 

1.平成21819日の検査成績

 

表2.平成22年1月6日の検査成績

 
 
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